十日町待望のクラフトビール作りへ

そこから、「十日町の地ビール」実現に向けての調査が始まります。それまでもビアレストランの店長として、国内あちこちのブルワリーに視察に行っていた髙木さんですが、日本のクラフトビール界の第一人者である伝説の醸造家・丹羽智(にわさとし)さんが手掛ける「アウトサイダーブルーイング」に見学に行き、衝撃を受けたと言います。「山梨県の甲府にあるんですが、元洋服店だったという、商店街の中の本当にコンパクトなスペースに醸造設備があって。巨大設備でなくとも、こんなにもすばらしいビールを作れるんだ!と驚きました。丹羽さんに設備機材はどこから?などあれこれ質問すると快く教えてくださったんです」丹羽氏の協力もあり、設備購入や必要となる資金の概算見積もり、免許取得の方法など、開業に必要なことをまとめ上げた髙木さん。その計画書を見た経営のプロである「東京時代の恩人」が、事業資金の支援をしてくれることに。「必要な資金のうちの1/3は私が集めることになって。レストラン起業時に自分の貯金を使ってしまっていたので、とにかく何とか支援してもらえるところは無いかと情報を集めました」

 

ここから、妻有ビール開業に向けて、髙木さんの奮闘の日々が始まります。

 

レストラン運営は3人の経営陣に引き継ぎ、2016年12月には、十日町市主催のビジネスコンテスト「トオコン」にエントリー。最終プレゼンまで進み最優秀賞こそ逃したものの、十日町市から100万円の資金援助を受けることに成功。さらにそのコンテストに出たことで、地元銀行から十日町地域を盛り上げる事業だと認められ融資を受けられることになりました。そして2017年夏には、クラウドファウンディングによる支援を募り、目標100万円設定のところ倍以上の209万円を達成。170名にものぼる人たちの期待と支援の気持ちが詰まったお金が集まりました。

 

 

開業に向かって走る!

この間にも、丹羽氏の元で一からビール作りについて学び、

伝説の醸造家と言われる丹羽氏に師事。約2カ月間の研修期間には、他地域でクラフトビールの起業を目指す人も訪れていたそう。

 

ゆくゆくは「十日町産ホップでビールを作りたい」と、飛渡(とびたり)地区でホップの試験栽培をしたり、

地域おこし協力隊時代の仲間で、現在飛渡地域で農業を営む池田さんが協力を。今年は面積を広げて栽培し、来年の収穫を目指すそうです。

 

醸造免許取得のため、各種手続き、書類の作成・提出などの事務作業もこなしていきました。松代地区の元建築会社の事務所だったという物件を借り、醸造所の工事もスタート。「本当にお金に余裕がなくて。建築会社さんからの見積もりも細かくチェックして、できそうなところは自分でやろうと。でも、自分一人ではやっぱりできないですからね…。そこは、もう、多くの方々に頼らせていただきました(笑)」Facebookで「妻有ビール醸造所ペンキ塗り」イベントを立ち上げると、のべ20人もの人がボランティアで参加してくれたとか。友人たちだけでなく、Facebookを見て純粋に手伝いたいと遠くから来てくれた人もいたそうです。

 

約95㎡の醸造施設ながら、すべての壁、天井を塗るのはかなりの作業。数日間かけて無事終了!

 

「ほかにも、200~300kgもあるタンクをはじめ、重たい機材を醸造所に運び入れる作業も、7人の男性が手伝いに来てくれたり、その機材を組み立てるにも、設計図など付いている訳ではないので、地元の業者さんたちがその繋ぎ方を学びに甲府の丹羽さんのブルワリーまで行ってくれたり。そしてその丹羽さんも、組み上がった設備の細かな微調整をしに来て下さったり…。本当に多くの方々に助けていただいてここまできたんです

いろいろな人の手により醸造所の稼働にこぎ着けられたと話す髙木さん。施設内には500リットルタンクが3基あります。

麦芽を粉砕する部屋。

樽にはTSUMARI BREWINGの文字が。

 

そして、「妻有ビール」誕生