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地元愛にあふれる女性が作る「妻有ビール」デビュー!

まだまだクラフトビール人気の今、2月に行われた十日町雪まつり会場で、このエリア初の地ビール「妻有(つまり)ビール」が発売されました。

時折、吹雪も吹き荒れる極寒の中でも飛ぶように売れ(2日間で240リットルも!)、順調なデビューを飾ったそうです。実はこの「妻有ビール」、写真のこの女性がたった一人で作っているんです!髙木千歩(たかぎ ちほ)さんに、これまでの経緯についてお話を聞きました。

 

 

東京から大好きな十日町へ移住

松代にある醸造所にて。ピカピカのタンクの前でにこやかな表情の髙木さん。

 

 

「両親が十日町の出身だったので、子どものころから十日町にはよく遊びに来ていました。自然豊かで、普段できないような体験ができる。たとえば畑でもぎたてのトマトを頬張るとか、冬は大きなかまくらを作るとか。『十日町=楽しい・私にとって特別な場所』になっていました。大人になっても、春は山菜採り、夏は諏訪神社の八角神輿、冬はスノーボードと、年に何回も来ていました」

 

東京で会社員をしていた髙木さんは、大好きな十日町の「地域おこし協力隊」に応募。2011年の秋に十日町に移住します。隊員としての活動の中でさらにこの土地の魅力に触れ、十日町への定住を決意。自分が好きなクラフトビールを気軽に飲めるお店を作ろうと、2014年4月に十日町駅前に仲間4人でクラフトビールとシカゴピザを楽しめるビアレストラン「ALE beer&pizza(エールビアアンドピッツア)」をオープンさせました。

ALE beer & pizzaのシカゴスタイルのピザは、タルトのようなサクサク食感。新潟県内で食べられるのは、おそらくここだけ!

 

 

「お客さんに、『十日町の地ビールはないの?』と聞かれることが度々あって。『あればいいんですけどね~』って、その時は答えていましたね」。オープンから1年経ち、お店も少しずつ軌道に乗ってきた頃、東京の会社員時代にお世話になった人に会う機会があり、「次は、何をするつもり?」と聞かれた髙木さん。「この土地ならではのビールが作れるといいですよね」と答えたそうです。「実は…その時は自分自身でそのビールを作るとは思っていなくて(笑)。ビールをレストランで提供する側としての興味で、おいしかったビールの醸造所を訪問し、作り手さんたちからお話を伺う中、資金もたくさん必要な事業なので自分で手掛けるのは無理かもなあと思っていました。」

当時のことをお話してくださる髙木さん。ブルワリー起業をしたくて移住されたのかと思っていたら…違ったようです。

 

十日町待望のクラフトビール作りへ  >

十日町待望のクラフトビール作りへ

そこから、「十日町の地ビール」実現に向けての調査が始まります。それまでもビアレストランの店長として、国内あちこちのブルワリーに視察に行っていた髙木さんですが、日本のクラフトビール界の第一人者である伝説の醸造家・丹羽智(にわさとし)さんが手掛ける「アウトサイダーブルーイング」に見学に行き、衝撃を受けたと言います。「山梨県の甲府にあるんですが、元洋服店だったという、商店街の中の本当にコンパクトなスペースに醸造設備があって。巨大設備でなくとも、こんなにもすばらしいビールを作れるんだ!と驚きました。丹羽さんに設備機材はどこから?などあれこれ質問すると快く教えてくださったんです」丹羽氏の協力もあり、設備購入や必要となる資金の概算見積もり、免許取得の方法など、開業に必要なことをまとめ上げた髙木さん。その計画書を見た経営のプロである「東京時代の恩人」が、事業資金の支援をしてくれることに。「必要な資金のうちの1/3は私が集めることになって。レストラン起業時に自分の貯金を使ってしまっていたので、とにかく何とか支援してもらえるところは無いかと情報を集めました」

 

ここから、妻有ビール開業に向けて、髙木さんの奮闘の日々が始まります。

 

レストラン運営は3人の経営陣に引き継ぎ、2016年12月には、十日町市主催のビジネスコンテスト「トオコン」にエントリー。最終プレゼンまで進み最優秀賞こそ逃したものの、十日町市から100万円の資金援助を受けることに成功。さらにそのコンテストに出たことで、地元銀行から十日町地域を盛り上げる事業だと認められ融資を受けられることになりました。そして2017年夏には、クラウドファウンディングによる支援を募り、目標100万円設定のところ倍以上の209万円を達成。170名にものぼる人たちの期待と支援の気持ちが詰まったお金が集まりました。

 

 

開業に向かって走る!

この間にも、丹羽氏の元で一からビール作りについて学び、

伝説の醸造家と言われる丹羽氏に師事。約2カ月間の研修期間には、他地域でクラフトビールの起業を目指す人も訪れていたそう。

 

ゆくゆくは「十日町産ホップでビールを作りたい」と、飛渡(とびたり)地区でホップの試験栽培をしたり、

地域おこし協力隊時代の仲間で、現在飛渡地域で農業を営む池田さんが協力を。今年は面積を広げて栽培し、来年の収穫を目指すそうです。

 

醸造免許取得のため、各種手続き、書類の作成・提出などの事務作業もこなしていきました。松代地区の元建築会社の事務所だったという物件を借り、醸造所の工事もスタート。「本当にお金に余裕がなくて。建築会社さんからの見積もりも細かくチェックして、できそうなところは自分でやろうと。でも、自分一人ではやっぱりできないですからね…。そこは、もう、多くの方々に頼らせていただきました(笑)」Facebookで「妻有ビール醸造所ペンキ塗り」イベントを立ち上げると、のべ20人もの人がボランティアで参加してくれたとか。友人たちだけでなく、Facebookを見て純粋に手伝いたいと遠くから来てくれた人もいたそうです。

 

約95㎡の醸造施設ながら、すべての壁、天井を塗るのはかなりの作業。数日間かけて無事終了!

 

「ほかにも、200~300kgもあるタンクをはじめ、重たい機材を醸造所に運び入れる作業も、7人の男性が手伝いに来てくれたり、その機材を組み立てるにも、設計図など付いている訳ではないので、地元の業者さんたちがその繋ぎ方を学びに甲府の丹羽さんのブルワリーまで行ってくれたり。そしてその丹羽さんも、組み上がった設備の細かな微調整をしに来て下さったり…。本当に多くの方々に助けていただいてここまできたんです

いろいろな人の手により醸造所の稼働にこぎ着けられたと話す髙木さん。施設内には500リットルタンクが3基あります。

麦芽を粉砕する部屋。

樽にはTSUMARI BREWINGの文字が。

 

そして、「妻有ビール」誕生

そして、「妻有ビール」誕生

2017年11月、無事に醸造免許が下りて、2018年・今年1月頭に初仕込みをし、3種類の十日町産クラフトビールが出来ました。

左から、十日町らしく、そばで香り付けをした「十日町そばエール」、オレンジピールが香る華やかな印象の「めでたしゴールデンエール」、スタンダードな味わいを楽しめる「豪雪ペールエール」。

 

「雪まつりの会場で販売ブースに立っていると、『Facebookでずっと見てました!』とか、『新聞記事を読んで気になっていたんです』とか、たくさんのお客さんが声を掛けてくださいました。ここまでの道のりを知ってくれている友人たちの中には、本当に良かったと目に涙をうかべて飲んでくださる方もいて。ここまで突っ走って来ましたが、あぁ、とうとう念願の十日町の地ビールを自分で作ったんだなぁと、やっと実感が沸いてきましたね」。大好きな十日町をもっと魅力的にしたい、十日町のファンを増やしたいという一人の女性の思いと行動に、支援するというよりも、むしろ自ら自分もそこに関わりたい、参加したいという人たちのパワーが集まって、「地域待望の地ビール」が誕生したのだと思いました。

「この八角形に鳳凰のロゴは、8月の十日町おおまつりの諏訪神社 八角神輿をイメージしているんです」。全国でも珍しい八角神輿は地域が誇るおまつりの象徴。妻有ビールはその誇りを掲げて、これからどんどん羽ばたいていくことでしょう。

 

 

※妻有ビールはALE beer & pizza(十日町市宮下町西267−1、TEL 025-755-5550)、SMOKE&BEER ORION(上越市仲町4丁目4−1、TEL ​025-520-5454)、NIGHT CAFE RISE(南魚沼市六日町107−1、TEL 025-773-2576)などで飲むことができます。※常設とは限らない場合がありますので、事前にお店までご確認ください。

(2018年3月現在)

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