サイトアイコン Komachi MAG.

新発田市出身の女優・木竜麻生さんが、体当たりで臨んだ初主演映画

 7月7日の東京を皮切りに、全国で順次公開されている映画「菊とギロチン」。今作は、「ヘヴンズ ストーリー」「64 ロクヨン」の瀬々敬久監督が、「女相撲」と「ギロチン社」(大正時代に実在した、「社会を変えたい、弱い者も生きられる世の中にしたい」という夢を持つアナキスト集団)をテーマに、構想30年を掛け完成させた入魂作。史実をもとに、時代に翻弄(ほんろう)されながらも「自由」を求めて疾走する若者たちの姿を描いたアナーキー(無政府・無秩序状態)な青春群像劇として話題を集めています。

 

 この作品の主演で、女相撲の新人力士・花菊を演じたのは、新発田市出身の新人女優・木竜麻生(きりゅう・まい)さん。オーディションを受けている時から「花菊」への思い入れがあったといいます。

 

 

木竜さん「作品のことを知ったのは、事務所の社長が『こういうオーディションをやってるよ』と教えてくれたのがきっかけです。その時は出演者と出資者を募集していて。少し脚本を読ませていただいたんですけど、私自身も挑戦してみたいと思ったし、社長も『挑戦した方がいい』と言ってくれて、オーディションを受けました。それまで、CMやMV(ミュージックビデオ)、ドラマや、短編の映画などには出演させていただいたことがあったんですけど、長編の作品をやったことがなくて。映画にきちんとした形で関わってやってみたいと思ったのが(オーディションを受けた)大きな理由ですね。

 正直、『アナキスト』や『ギロチン社』もよく知らないままで受けていました(笑)。女相撲の存在も知っていたんですけど、どんなものかはよく知らなかった。作品自体は、アナーキーなものだと思うんですけどそこに対して特に抵抗もなく、体当たりで演じることに関しても全然嫌ではなくて。

 最初はヒロインと他の出演者、関係なくみんな一斉にオーディションをやって、その後、役に振り分けられて二次、三次と進むんですけど、進めば進むほどこの『花菊』という女の子に対して思い入れが深くなって。絶対やりたいと思ってオーディションを受けていました」

 

 最終的に、実に300人の応募者の中からヒロインの座を射止めた木竜さん。抜てきの理由を瀬々監督に問うと意外な答えが返ってきたと言います。

 

 

木竜さん「(プロモーションで)監督と一緒に取材を受ける機会があって、その時に『木竜さんをヒロインに抜てきした理由は?』と聞かれることがあったんです。その時に監督がおっしゃっていたのは『どことなく懐かしい顔立ちをしてる』ということ。『(顔立ちが)どっちかといったら昭和っぽい空気を感じるので、まずこの作品に対して違和感がない。そして不器用そうなんだけど芯が強いっていう印象が、この映画の中の『花菊』という女の子とかぶるんじゃないか』とおっしゃってくださいました。本当に、顔立ちが古くて良かったと思いました(笑)

 実際、『花菊』を演じていく中で、私の“地”の部分が出ていることが多い気がします。どのシーンって言われると困るんですけど、何となく全体的に自分に通じる部分があったのかなと思います。逆に『花菊』に憧れたシーンもあって、彼女は女相撲を見て強くなりたい、変わりたいという事を思って、そのあとに声に出して言葉にして話をする部分があるんです。自分がホントはどう思っているのかを言葉にするみたいなのは、今の私たちの方が抵抗がある気がしていて。彼女に対してそこはすごく憧れました。この時代のこの余計な情報とか携帯とかなくてシンプルでそぎ落とされた状態から出てくる彼女の言葉みたいなのは、『なんかいいな~』ってすごく思って。そこは彼女の真っすぐな部分が画面に映っていてほしいなと思いました」

「2カ月かけて相撲の稽古」(次のページへ)

 女相撲の力士・花菊を演じるに当たって、最も大変なのは相撲を取るシーン。木竜さんをはじめ「玉岩部屋」に所属する女力士役の12人は、クランクインの2カ月前から週2のペースで日本大学女子相撲部の方々に稽古をつけてもらっていたといいます。

 

木竜さん「2カ月間、(女力士役12人)全員で行動して、みんなまわしを付けて、汗だくになって、練習終わりでシャワーを浴びて、ご飯を食べて帰るみたいな感じでした。すごく大変だろうなと想像していたんですけども実際やってみたら、想像よりもずっとずっと大変で。ホントに足が上がらなくて引きずりながら、声を出さないと動けないってこういう事なんだと思って。家に帰る帰り道で泣いて、もうすごい所に入っちゃったと思いました。でももうやるしかないし、頑張りたいって気持ちがすごくあったので、そこからは、みんなで一生懸命いっぱい食べるようになりました。(農村から出てきて、女相撲部屋に入り、逃げ場がないからやるしかないという花菊の心境に似ていた?)そうですね。すごくリンクしていたと思います(笑)

 でも、みんなで2カ月間一緒にやっていた分、共演者の皆さんともコミュニケーション取れていましたし、立ち会いのシーンも『こうしよう、ああしよう』って、直前まで声を掛け合いながらだったので、大変は大変だったんですけど、今までやって来たものを思い出しながらできました」

 

 

 肉体的にも精神的にもハードなシーンが多い中、木竜さんが撮影現場で感じたのは、瀬々監督の作品に掛ける圧倒的な熱さ。その情熱を感じながら撮影に臨んでいたと言います。

 

木竜さん「監督はあんまり口数は多くないですし、現場に入っていた時は、ほとんど話をしていなくって。でもすごく熱い方。厳しさの中にスタッフ・キャストに対しての愛情がものすごく深い方だと思います。誰より一番情熱を持って、現場に常にいらっしゃいました。

 演技の指導などはほとんどなかったですね。“自由”をテーマにした映画っていうのもあって、監督はたぶん全キャストに対して『自由にやっていいよ』と言っていたと思います。キャストがまず自由に動くのを見て、大きく違えば言いますし、その感じで良ければそのままにする。演出していただくときも、動きを言葉で伝えるよりも、気持ちを伝えるというか、情熱的におっしゃってくれる感じがすごく多かったですね」

 

 

「現代の日本に通じる作品」(次のページへ)

 物語の舞台は、関東大震災直後の混沌とした日本。軍部が権力を強める中で、それまでの自由で華やかな雰囲気は失われていました。約100年も前の、人々を取り巻く環境も現代とはまるで違う時代の話ですが、作品を見た筆者は、今という時代に作品が公開されることにすごく意味があるように感じました。

 

 

木竜さん「私は見終わった後に、すぐには客観的に考えれませんでした。でも観た後に思い返したり、時間が経ってから考え直した時に、今おっしゃってくださったみたいに、『これは自分たちの話じゃないかな』って思ったんですね。今のなんとなく世の中が不穏な空気で、どうなるんだろうっていう漠然とした不安をみんなが持っている状況。そんな中でも、希望だったり光だったり、うれしいニュースにみんな喜びたい。そういうのってこの大正時代の不穏な雰囲気だけど、夢を見たいし、自由が欲しいというところが、すごく通じているような気がして。監督が『3.11(東日本大震災)以降脚本を書き変えて、関東大震災について調べて、多少見切り発車でもこの作品を始めた』ということを、ある取材でおっしゃっていたんですけど、これは本当にこういう事だったなって、見終わって思いましたね。だから今みたいにおっしゃっていただくとすごいうれしいですね。

 

 観ていただいた方に、これは自分たちの(現実の)お話なのかもって思ってもらえるような、今に通じる部分がすごくある作品だと思います。そういう作品に関われた事が私自身すごくうれしいです。それがさらに自分の出身地で公開されるっていうことも、ものすごくうれしい。ぜひ今、現代に生きてる方に観ていただきたいですし、新潟の皆さんに劇場に足を運んでいただけたらうれしいです」

 

 

 この作品をきっかけにさらに大きな舞台へ羽ばたくであろう木竜さん。最後に今後の目標を聞きました。

 

木竜さん「まだ全然経験がないので、これからいっぱい発見だったり、頑張らなきゃいけないし、ぶち当たる壁もたくさんあると思うんです。それでももっともっといろんな作品に関わりたいですし、関わった作品を誰かが観て勇気をもらう1本になったり、誰かの心の1本になれたら幸せだなと思います。そんな作品に関われるように女優として頑張っていきたいなと思います」

 

(c)2018「菊とギロチン」合同製作舎

 

◆作品情報

「菊とギロチン」

脚本・監督/瀬々敬久 脚本/相澤虎之助 

出演/木竜麻生、東出昌大、寛 一 郎、韓英恵 ほか
◆配給:トランスフォーマー 
9/15(土)~21(金)12:35~15:55、シネ・ウインドにて公開予定

 

モバイルバージョンを終了