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ファンの力が再上映の後押しに「青の帰り道」藤井監督来県!

7月27日から新潟・市民映画館 シネ・ウインドで公開中の「青の帰り道」。この作品を手掛けた藤井道人監督が来県し、舞台あいさつやファンとのミーティングを行い、さらにはKomachi MAG.のインタビューにも応えてくれました。本作は昨年12月に全国公開されたもので、県内では再上映となります。東京再上映で「青の帰り道」を見た新潟在住の清野さんが中心となった「青の帰り道新潟応援団」がシネ・ウインドに直接掛け合い、同館の井上支配人の尽力で上映が実現。リニューアルして座席が新しくなったばかりのシネ・ウインドには多くのお客さんが押し寄せ、初回12時20分の上映後には井上支配人の進行で藤井監督の舞台あいさつがスタートしました。当日の新潟市は36度を超える猛暑日。映画のロケが行われた群馬県前橋市も猛暑で有名ですが、監督いわく今日の新潟は、撮影中の前橋をほうふつさせるような暑さだと言います。そして、撮影に関する話が語られました。

藤井監督「実は2016年にこの映画は、7割を撮った段階で撮影が中止になってしまって。これまで同じく中止になったお蔵入り作品っていっぱいあったんですけど、今回はキャストとスタッフみんなが(再撮するために)来年の夏も空けて待ってるからねって言ってくれて、みんないい映画を撮れている自信があったんですよね。この映画を完成させないと前に進めないなって、思ってくれてて。それで2017年に再び暑い夏がやって来て、無事撮り終わりました」。

出演者の不祥事から撮影が中断されるというアクシデントに見舞われた本作。代役を立て、約1年後に再撮を終え完成しましたが、監督にとって特別な体験だったようです。

藤井監督「やっぱり2回同じシーンを撮るのは、僕も人生であまりやったことがなかった。しかもキャストを代えて、シナリオとロケ地も同じ。俳優陣にはすごい負担がかかったなって。それでもみんなでやりきったから良かったなって今は思えますけど、ちょっと辛かったなっていうのもありますね」。

2016年8月14日にクランクインして、17年8月13日にオールアップ。再撮期間は11~12日間ぐらいしか取れず、タイトなスケジュールだったそうです。

藤井監督「若い俳優は1年で飛躍的に変わるんですよね。普段そういうのって映画にとって悪影響を及ぼす事が多いんですよ。髪型だったりいろんな変化は。でもこの映画は10年というものを描いているので非常にそれがプラスに役立つ事が多くて。1年掛けて撮れたから今みんなに見てもらった「青の帰り道」があるんだなと思ってます」。

最後にシネ・ウインドに集まってくれたお客さんに向けて監督からのメッセージです。

藤井監督「新潟のシネ・ウインドの皆さんはじめ、応援団の皆さま、ありがとうございます。実はアップリンク渋谷での上映の時に応援団の清野さんが来てくださって、新潟で上映したいんですと伝えてくれ、この事がキッカケで今回が決まりました。僕たちが何かシネ・ウインドさんに働きかけてって事ではなくて、そういう一つ一つの熱い思いで僕がここに立てているのは非常にうれしいです。完成した映画はお客さまのものだと思って作っております。それがみんなの力でこうやって真っ青のステキな座席の中でこの映画を観ていただいて、皆さまそれぞれ何か感じることがあると思います。それを共有できたら、しかもそこに感謝の気持ちを直接伝えに来れたことは、僕にとっても非常に大切なステキな経験になりました。ありがとうございます」。

舞台あいさつが終わった藤井監督は、ファンの方たちとのトークセッション「青の帰り道について語り合う会」に参加するため、新潟日報メディアシップに移動。1階のエントランスホールから2階へ続く階段横のスペースで、「青の帰り道新潟応援団」の清野さんの進行のもと、ファンの皆さんから監督へさまざまな質問や作品の感想が飛び出しました。さらに監督自身の幼少期や家族の話、座右の銘など、パーソナルな質問にも答えてくれました。

 

藤井道人監督にインタビュー


再びシネ・ウインドに場所を移し、今度はKomachi MAG.のためにインタビューに応えてくれました。
本作はおかもとまりさんの原案を元に藤井監督が脚本を執筆したもの。プロデューサーを介しておかもとさんに会ったそうですが、互いの共通点があったと振り返ります。

藤井監督「2016年1月にプロデューサーからおかもとまりさんの映画を作りたいという企画が送られてきた時には、正直ピンとこなかったんですが、でも実際会って聞いてみると、彼女と僕に共通点が一個だけあったんです。若い時に自分の仲間を自殺で亡くしているっていう。おかもとさんはその時なんで自分に掛けられる言葉が無かったのかっていうことをすごく後悔していて、そういう人を一人でもいなくさせるというか、自殺を少しでも食い止められるような映画を作りたいっていう彼女の意志があった。実は僕は以前からそういう企画を書いていたんです。「僕らは」ってタイトルの映画で、男性5人の話だったんですけど、男女7人の話に書き換えて、それを見せたら、こういうトーンでやりたいってことで決まりました。後は彼女に取材をさせてもらって、いろんなエピーソードちりばめて、「青の帰り道」になったんです」。

映画は真野恵里菜さん演じるカナを中心に、高校生の男女7人の卒業してからの10年間が描かれています。

藤井監督「高校生7人という話よりは男女7人の高校生からモラトリアム期間、大人になるまでの数年間という話をやりたいなと思っていたんです。一番は社会に出てからもがく若者たちに一番フォーカスを当てたかった。真野さんはキャスティングなんですが、他の出演者は(基本的に)オーディション。(横浜流星さんが演じる)リョウは僕の中学1年の親友をモデルにしているので、その人に一番近い人間を選びました。オーディションの時に流星の目が良かったっていうのを覚えていますね。映像用語なんですけど、“生きている目をちゃんと表現できる人”だった。これって練習したから出来るってわけでもなくて、生きてきたものは実は目に出る。その目にやっぱりちゃんと人間が宿ってる感じがすごくあったんです」

前記した通り撮影中にアクシデントに見舞われ、撮影は一時中断。監督はすぐに撮影の再開を望みましたが、事の大きさにかなわず、前橋から東京へ戻ることになりました。

藤井監督「その時は自分で撮影済みのデータを持っていたので、それを5~6分につないだ物をプロデューサーに見せて、もう一回絶対撮りたいんですって言ったのが(事件発生から)2週間後ぐらい。そうしたらプロデューサーも『僕もそう思ってたよ』って言ってくれて。そこからキャスト、スタッフみんな一丸となってそういう思いでいてくれて、ほとんど同じメンバーで翌年も撮影出来ることになりました。みんな2016年の段階で、1年間の内に売れておこうみたいな、1年間、無駄にしないように考えようねって。その間ずっとつるんでいたってことは全然なくて、みんながそれぞれに活動してそれぞれに成果を出して2017年に合流したような感じなんです。その中で座長の真野さんはすごく鬼気迫る覚悟で挑まれていたし、なんかみんながその熱量に吸い寄せられて再撮は何のトラブルもなく終わりました」。

本作はほろ苦い若者の群像劇ですが、監督は実は意外な年代の人に映画を見てほしいと言います。

藤井監督「実は10代ではなく、大人になってしまった人たち。母になったり、友達と疎遠になったり、親の介護が始まって自分の人生ってなんだったけ?こんなはずじゃなかったんだよなって、思っている人たちに届くように書きました。それでいいんだよっていう事を感じ取ってもらいたい。自分の人生を肯定できる映画になっていればいい、捉え方はそれぞれでいいんです。さっき(トークセッション)も私の人生とは違う人生だったって言う人もいれば、自分の人生のようだったって言う人もいました。親として子どもたちが何を考えているかわかんないけど、この映画を見てわかったような気がしたって言う人もいる。でもどんな事があっても理想は理想で、現実は現実で、その現実ってものから目を背けない事が生きるって事なのかなっていう事が最終的な解釈なんだと思います。自殺をやめようって何回吠えたところでその人たちの自殺したい感情には届かない。それでいいんだよって言ってあげる事の方がその意味になるのかなって思いながらこの映画を作ったのを覚えてますね」。

監督は最新作「新聞記者」で権力とメディアの裏側を大胆に生々しく描き、話題になりました。次はどんな作品を見せてくれるのでしょうか。

藤井監督「年内に撮影予定の作品があります。今まで人間の業だったり、不条理だったり、そういうものに向き合う映画をずっと作ってきたんですけど、次に挑戦したいのは、いろんな感情をごわごわむしり取るような映画ではなくて、映画館を出たときにいっぱい泣きはらして、今まで自分たちが出会ってきた人間たちへ連絡を取りたくなる映画を撮ります。大人になってしまった人たちへではなく、大人になった私たちへみたいな。優しい映画を撮ります、悪人ゼロみたいな(笑)」

最後にファンの働きかけで再上映にこぎつけたことに関して監督の思いをお聞きしました。ご自身にとっても今回の事例は初めてで、とてもうれしい出来事だったようです。

藤井監督「新潟のシネ・ウインドさんに掛け合ってくれたのは、市民団体、応援団の方。今、そういうことが不可能じゃない時代になってきているけど、やろうとしている人は少ないんですよね。僕がすごく尊敬している部分というのは、やらなくてもいいこと、DVDでも見れるかもしれない。でも自分の街の映画館でこれをかけたいっていう思いがあって、動いた人たちの熱量って、一生忘れないと思うんですよね。そういうことをやっている人たちをすごくリスペクトしますし、その人たちに選んでもらえる映画になったことが光栄です。決してこれは映画の力ではなく、僕たちの力ではなく、新潟っていう街に生きている人たちの1個のムーブメント。それに対して今後僕たちが何を恩返ししていけるのかなというのをしっかり考えて生きていきたいと思うので、まずはたくさんの人に見ていただきたいです」

「青の帰り道」はシネ・ウインドで8月9日(金)まで公開中です。

 
 ◎プロフィール
藤井道人 Michihito Fujii
1986年生まれ。東京都出身。映像作家、映画監督、脚本家。BABEL LABELを映像作家の志真健太郎と共に設立。日本大学芸術学部映画学科脚本コース卒業。脚本家の青木研次に師事。
伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』でデビュー。以降、『7s/セブンス』などの作品を発表する一方で湊かなえ原作ドラマ『望郷』、ポケットモンスター、アメリカンエキスプレスなど広告作品も手がける。2017年Netflixオリジナル作品『野武士のグルメ』や『100万円の女たち』などを発表。2019年『デイアンドナイト』『青の帰り道』『新聞記者』が全国公開中。

◎作品情報
青の帰り道 
公開中~8/9(金)
原案/おかもとまり
監督/藤井道人
脚本/藤井道人、アベラヒデノブ
出演/真野恵里菜、清水くるみ、横浜流星、森永悠希、戸塚純貴、秋月三佳、冨田佳輔 
HP/aono-kaerimichi.com/【PG12】 
主題歌/amazarashi「たられば」
配給/NexTone
配給協力/ティ・ジョイ
再上映配給/BABEL LABEL、ボタパカ、and pictures

 

Ⓒ映画「青の帰り道」製作委員会

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