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2020年代のポップスを目指して/鈴木恵TRIO

 鈴木恵さんは、新潟を拠点に活動するバンド、EXTENSION58でギターとボーカルを務めるとともに、新潟のアイドルユニット、RYUTistに楽曲を提供しています。そんな鈴木さんが、バンドとは別に、青木宏美さんと田邉周平さんの3人で結成したのが、鈴木恵TRIOです。

 

「もともとは僕のソロとしての活動で、バンドではやれない音楽をできないかと考えたのがきっかけなんです。だから、最初は知り合いのいろいろなミュージシャンたちに協力してもらって、ライブも3人でだったり5人でだったり、決まった形ではやっていなかったんですよ。でも、そうやって曲を作ってライブを続けるうちに、今の3人が中心になるメンバーとして固まっていったという感じですね」

 

 そう鈴木さんは語ります。では、鈴木さんの言う、バンドではやれない、このトリオだからできる音楽というのは、一体どんなものなのでしょうか?

 

「ミュージシャンである以前に、リスナーとしての僕自身が本当に、いろいろな音楽が好きなんです。その中には、管楽器や弦楽器をたくさん使ったり、女性コーラスが加わったりしているものも多い。そういう、固定したメンバーによるバンドとは違った音楽を、僕自身で生み出してみようと思ったんです」

 

 鈴木さん自身は、1950年代から現在にいたるまで、主にアメリカやイギリスで生み出されてきたロックとポップスを中心に、実に幅広い音楽を愛し、聴いてきたといいます。それらの要素は、EXTENSION58と鈴木恵TRIO、双方の曲に生かされていますが、とりわけ後者の曲には、多種多様で数も多い管楽器と弦楽器の響きが加わっています。

 

 

「どんな楽器の音色にも、人間の声がそれぞれ違うように、異なる個性があると、僕は感じているんです。その個性がいくつも重なると、特別な響きが生まれます。その響きに、これまで僕が聴いてきた音楽を通じて魅せられてきたんだと思うんですよ。だから、同じようにたくさんの楽器が同時に鳴ったときに生まれる響きを聴いてくれる人に感じてほしいというのが、このトリオをはじめた理由の1つです。そして、楽器と一緒に、僕らメンバーの声、3人のコーラスを楽しんでもらえることをTRIOでは目指しています」

 

 多彩な楽器の響きの重なりとメンバー3人のコーラスを楽しんでもらうために、鈴木恵TRIOでは、生の音の響きを大切にして、コンピューターやシンセサイザーをはじめとする電子機器をまったくといっていいほど使っていません。

 

「コンピューターを使って作った音楽には、それにはそれで、魅力的な部分は必ずあると思います。今ではコンピューターを使えば、ある意味で音楽的にどんなことでもできますし、実際に僕も、このTRIOでレコーディングした音をコンピューターで編集したりもしています。だけど、大本のところ、音楽が最初に鳴り始める部分は、生の音から始めたいと思うんです」

 

 楽器の生の響きと人の声が織りなす、鈴木恵TRIOの曲は、どんな過程を経て生まれてくるのでしょうか?

 

「例えば、ある曲の発端になるアイデアを思いついたとき、この曲ではトランペットを鳴らしてみたいなというような考えも同時に浮かんだりするんです。それで、その曲のメロディーとトランペットの響きを生かすために、ほかの楽器も含めた曲全体の編曲をしていくんですよ。そして、編曲ができたら、演奏してくれるミュージシャンたちに集まってもらって、実際に編曲した通りに楽器を鳴らしてみます。そうすると、最初に曲のアイデアを思いついたときには想像していなかった、想像を超えた響きが生まれる。そういうことが今まで何度もありました。それぞれの曲のちょっとしたアイデアを編曲しながら完成させていくプロセスを経て、結果として作り始めのときには想像していなかった音が鳴っている。それが、このトリオの音楽なのかもしれません」

 

■アルバムを作れたのは、RYUTistのおかげ(?!)

アートワークは、サニーデイ・サービス、くるりでお馴染み、最近ではシャムキャッツ等気鋭アーチストのジャケットを手がける「小田島等」氏が担当。今回のジャケットも聴き手の心を揺り動かすの衝撃的な絵画がモチーフ。

 

 

 曲を作る鈴木さん自身の想像も超えるトリオの音楽は、10月9日(水)にリリースする初めてのフルアルバム「come here my dear」で聴くことができます。メンバー3人を含めて、総勢18人のミュージシャンがレコーディングに参加し、トランペットやホルン、バイオリンをはじめ、多彩な楽器が加わったアルバムに収録された曲はすべて、聴く人を優しい気持ちにさせてくれるように響きます。そうした穏やかで明るい雰囲気を持った、このアルバムが作られることになったのは、鈴木さんがRYUTistに楽曲を提供したことがきっかけでした。

 

「最初は、RYUTistのスタッフをやっているある方が、僕の活動を知っていてくれて、彼女たちの曲を作るようにと依頼があったんです。それで作った『サンディー』という曲がアルバム『柳都芸妓』に収録されました。そうしたら、自分のレーベルを全国展開している人が『サンディー』を気に入ってくれて、僕自身がTRIOをやっているなら、そのアルバムを作ってみないかと、声をかけてくれたんです」

 

■要するに、すべては良い意味で「ただのポップス」

 今や全国からも注目を集めるRYUTistの曲を通じて訪れた、その裏方を務めている新潟のミュージシャンにも自分たちの音楽を広く発信するチャンス。その結果として生まれたのが、鈴木恵TRIOの初アルバムだといえるでしょう。

 

「まさに、その通りだと思います。アイドルの曲を聴くことは、僕も好きですし、これからも自分で作れる機会があるなら、どんどん作っていきたいですね。それに、できる限り幅広く、誰にでも楽しんでほしいという意味では、僕が今、やっているTRIOの音楽も、バンドの曲も同じですから、ただ、それぞれのアウトプットの方法が違うだけなんですよ。要するに、全部が良い意味で、『ただのポップス』なんです」

 

 この鈴木さんの言葉が表す通り、鈴木恵TRIOのアルバムで聴ける音楽も、クラシックのオーケストラで使われる楽器の音がいろいろと加わってはいても、難しいところは少しもなく、ただ楽しく、耳と心をなごませてくれる、まさしく「ポップス」です。

 

「ただ、この1950年代から続いてきた『ポップス』を僕らが受け継いで、未来へ残していくということに関しては、考え込んでしまうこともあるんです。僕自身は今まで、自分が好きなポップスをCDや、さかのぼった時代のものはアナログレコードでも楽しんできました。でも、これからは『モノ』としてのCDやレコードに触れる機会は、どんどん減っていくのは間違いありません。だから、今度作ったトリオの初めてのアルバムは、『2020年代のポップス』はどうあるべきかということも意識して、完成させていったんです。インターネットを通じて聴けるデジタル化された音楽とは違う、ジャケットや歌詞カードも一体となった、聴覚だけじゃなくて、視覚でも触覚でも楽しめる全体で1つの『アルバム』を残しておきたいという気持ちがありました」

 

 このように、多彩な曲調や多くの楽器の響きとともに、鈴木さんのさまざまな思いが込めたれたアルバムのリリースに先駆けて、10月5日(土)・6日(日)の2日連続で、鈴木恵TRIOは、新潟市内でライブを行います。

 

「ライブは、音楽がどんなにデジタル化されても残っていくと思います。何より、お客さんと一緒に、音楽を通じて1つに空気、時間を作っていける。それが僕は大好きですから、会場に集まってくれる皆さんにも、同じ気持ちになってもらえるように、TRIOとして初めてのアルバムの曲を楽しんでいただくつもりです」

 

◎公演情報

COME HERE MY DEAR TOUR 2019新潟編1日目「先行レコ発ワンマンパーティー」

【会場】BLUE CAFE(新潟市中央区上大川前通1237−1 サンシャイン新飯田屋2F

【日時】10月5日(土)18時30分開演

【料金】前売2,000円、当日2,500円(1ドリンクオーダー制)  

【予約】 BLUE CAFE 025-201-7885/鈴木恵ホームページの予約フォームより

 

新潟編2日目「音楽百景#47」

2019年10月6日(日)

【会場】Kaffa蒼紫(パルム)(新潟市中央区古町通6-987 ミサワビル2F)

【日時】10月6日(日)19時開演

【料金】前売2,000円、当日2,500円(1ドリンクオーダー制)※限定25名

【予約】 パルム 025-228-2050/鈴木恵ホームページの予約フォームより

 

すずきさとしとりお●鈴木恵(Vo、G)、青木宏美(D、コーラス)、田邉周平(G、鍵盤楽器、コーラス)。2012年7月、初のシングル「毎日が8ビート」をリリース。新潟県内はもとより、東京をはじめ、全国でライブ活動を続け、曽我部恵一、カジヒデキ、RYUTistほか、多くのミュージシャン、アーティストとステージをともにしてきた。初のアルバム「come here my dear」に収録された「かなかも」は、上越市出身で「みいつけた!」(NHK Eテレ)のキャラクターデザインなどを手掛けている大塚いちおが作詞している。

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