撮影を終え、角田監督と祖父母や父、親戚との関係はどのように変わったのでしょうか?

 

「大げさに言うと、自分がこの世界でどこら辺の立ち位置にいるのかっていうのは意識しましたよね。血は朝鮮系で、国籍は中国。でも今は国籍を取得して日本人というそれぞれの国をまたがっている流れの接合点みたいなところに自分がいる。これから作り手として、どんなものをやっていけるのか、その意味で回りを見る目は変わりました。それまで主観だった世界を空の上から見てる感じかな。例えば叔父さんの『お前は二度と来るな』というセリフにはどんな意味が込められてるのか、空から見ると割とわかりやすいなと思ったんです。多分父と僕を重ねていると思うんですけど、自分が今まで一生懸命支えた兄の瓜二つである息子が同じように創作家として生きている。それに対してすごく嫌悪感を抱いているだろうとかは引いてみるからこそわかる人間関係の一言だったりするので、それを上から見られるようになりました」。

 

 

20歳のころから本作の製作や撮影を始めてきた角田監督。約6年もの歳月を経て、ようやく公開にこぎ着けた今の気持ちと、どのような部分を見てほしいのかをお聞きしました。

 

「ただただ現状を映しているだけなので、作品の役割として主義主張は言いたくないんです。これはいい話か悪い話かって聞かれても僕はわからないので、観客の皆さんがどう感じるかも千差万別でいいんじゃないかと思っています。ただ(観客の)感想を読んで思うのは、この作品に役割があるとしたら、鏡的な要素があるなと思ったんです。100点満点幸せな人なんてほとんどいなくて、やっぱり誰しも家族にどこかしら欠陥を持っている。そういうところで皆さんがこの作品に共感してくれている。他人の話だから他人事として、より緩い形で見られるので、ある種フィクションだと思っています。他人の話を見て自分の過去を、優しい方法で振り返る。そんな鏡としての役割があるのかなと思います。これを知ってほしいとか、こんなダメな人がいるんだとか、そんな主張は特にないんですよ。ドキュメンタリーでしかも『血筋』っていうタイトルだと結構重くて、なんか敬遠しがちじゃないですか?だから退屈しないようにすごく気を付けて編集しました。大学でもたくさん上映会をしたんですが、大学生が一番評価が厳しいです。ここまでさらけ出したのを見るのは無理という人も何人かいました。幸せ満点な家庭に生まれた人には共感する要素がなかったのかもしれないですね。多少なりとも自我に対する問い、自分って何だろうっていう悩みを抱いて思春期を過ごしてきた人には結構深く刺さっている感じはありましたね」。

 

©Ryuichi

 

映画を作りながら、自分探しをしている部分もあるという監督。中国で生まれ、日本に渡り、仙台で育ち、新潟で大学時代を過ごし、現在は京都に住んでいます。監督にとって新潟はどのような町だったのでしょうか。そして今後、どのような活動を目指しているのでしょう。

 

「資金集めのクラウドファンディングにも多くの方に参加していただいたし、朝鮮系のテーマに興味を持ってくれる土地柄でもあるし、専門家も多かった。新潟は外部者に結構ウェルカムで、規模は小さいかもしれないけど、ちゃんとサポートしてくれて偏見も持っていない。受験でたまたま受かった大学が新潟だったんですが、新潟はこの映画にはなくてはならない場所ですね。今も作品のネタはずっと探していますが、もし映画がダメでも文字に移ればいいと思ってます。中国とか韓国とか海外に拠点を移すのもいいかもしれないですね。食べ物でも、僕はおいしいものを食べると作ってみたくなるんですよ。なんか『自分でも作れるんじゃない?』みたいな感じで言っちゃうところがある(笑)。映画も面白いものをたくさん見て、興味を持ったんです。最初はお金がかからないから小説を書いていたんですが、大学に入ったらバイトである程度お金も入るので、そうしたらカメラが買える。カメラを買えたので次は映像撮れるなって、それぐらいの軽いノリなんです。その生意気さが僕の一番の強味かもしれないですね」。

 

本作のプロデューサーは、大ヒットアニメ「エヴァンゲリオン」で知られるアニメ会社GAINAXの創始者である山賀博之(やまが・ひろゆき)氏。劇中の音楽は令和元年度(第74回)文化庁芸術祭賞(音楽部門)大賞を受賞し、現在、国内外で最も注目されているバイオリニストの郷古簾(ごうこ・すなお)氏。ポスターのイラストは、ゲーム『FINAL FANTASY』シリーズのアートディレクター・上国料勇(かみこくりょう・いさむ)氏が担当。スタッフロールにはそうそうたる名前が並びます。

 

「僕の一番の才能は強運であること。プロデューサーの山賀さんなんて、ここ(シネ・ウインド)でたまたまお会いした方ですし、音楽の郷古さんは中学の同級生ですよ。世界で1位になった同級生って、あまりいなくないですか?口説きに行ったら二つ返事で作ってあげるってなって。映画のポスターの表紙もたまたま会ったアートディレクターの上国料さんに描いてもらったりとか、いろんな部分で運を引き寄せていると思います。人が好きなんですよ。出来過ぎた人じゃなくて、ダメな部分を持った人間くさい人が大好き。運を引き寄せるしぶとさ、しつこさがたぶん僕の売りですね(笑)」。

 

 

◎プロフィール
角田龍一(つのだ・りゅういち)/1993年、中国吉林省延辺朝鮮民族自治州・延吉市生まれ。新潟県立大学卒業。ベルリン国際映画祭正式招待作品「Blue Wind Blows」で助監督を務める。 在学中から、新潟・市民映画館シネ・ウインドが刊行する映画雑誌で映画紹介文を書く一方で、本作「血筋」の撮影・制作を行い、カナザワ映画祭2019「期待の新人監督」にてグランプリを受賞した。現在は京都に住居を移し、山の方で一人暮らしをしている。 

 

©Ryuichi

 

◎作品情報
「血筋」 
2020年3月14日(土)~27日(金)公開
監督・撮影・編集/角田龍一
音楽/郷古簾
プロデューサー/角田龍一、山賀博之
HP/indelible2020.com
配給/アルミード  

上映館/シネ・ウインド

 

◎前売券申込みフォーム
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