大切にしたいことが気持ちの根っこにあるからでしょう。アルバムは、聴いてくれる人と感覚を共有したいという思いに満ちています。このアルバムを、3人のミュージシャンが少しの音を重ねた以外、彼はすべての楽器を自ら演奏し、コンピューターも活用するとともに、録音作業も自ら手掛けて完成させました。

 

「自分が何を聴かせたいのか、どんな感触の音で聴いてほしいのか、その意図を矛盾なくアルバム全体に反映させたかったんです。だから、できる限りのことを自分でやってみることにしたんですよ。もともと、いろいろな楽器に触れるのは好きだし、コンピューターでリズムを打ち込んだり、レコーディングの技術的なことでも音を調整するとか、どれも楽しんでやれる方なので、大変だと感じることはなかったですね」

 

 

 ほぼすべてを1人でやって完成させたと言っても、実際にアルバムを聴いて、閉じこもった印象を受けることはありません。全体の感じは、むしろ明るく開放的で、彼の個人的な世界へ招き入れてくれるような曲ばかりが聴けます。

 

「それは聴いてくれる人のことを、これまで以上に意識して作ったアルバムだからだと思います。といっても、聴く人が求めていることを先回りして形にするとか、求めているだろうと僕が思えることに自分をまげてすり寄るんじゃなくて、今、僕がいいと思える、音楽を通じて伝えたいこと、伝えるべきだと考えていることを信じて、それを素直に、飾らないで歌詞やメロディーにしていく。そのことで聴いてくれる人に共感してもらえたらと思って、アルバムを作っていったんです」

 

 自分が今、どんなことを感じ、何を曲にしていきたいのか。そのもとになる自身の感覚や感性を信じて、そこから生まれる音楽で、聴いてくれる人たちと思いを共有したかったといいます。

 

「感覚を共有したいという部分では、たくさんの楽器を使う中で、聴いた人に色彩をイメージしてもらえるような音色のものを選んでいきました。その音を聴いたときに、何となくですけど、色を感じてもらえるような楽器をいろいろ使っています。響きを生かすことで、曲調も自然に決まっていったということもありました」

 

Caravan / Retro【MUSIC VIDEO】

 

 その言葉通り、アルバム「THE HARVEST TIME」はまさにカラフル。曲ごとに、さまざまな色調を感じさせながら、全体を通じて鮮やかで明るく響き、自身のオフィス「Harvest」を設立して10周年を記念した作品にふさわしい内容になっています。

 

「このやり方で10年間活動を続けてきた今、僕に何ができるのか。やるべきことは何なにか。ずっと僕の音楽を好きでいてくれた人、そしてこのアルバムで初めて出会う人たちにも伝えたいと思ったんです。ただそれは義務とか責任とか、そういう堅苦しいことじゃなくて、現状報告というか『今の僕はこんな感じです』ということを、新しい曲を聴いて気楽に知ってもらえたらと思って作ったんです。以前と変わらない部分もあるだろうし、今までとは違う感じがあるかもしれません。もちろん今という時代を暮らしながら僕が感じたことから生まれた曲もあります。でもアルバムから何を受け取るのかは、聴いてくれる人の自由ですから、それぞれに何かを感じ取って楽しんでもらえたら、僕としては何よりうれしいです」

 

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