-初めて大地の芸術祭に参加された2015年は、伝説のバンド・YEN TOWN BANDのライブが印象的でした。なぜ大地の芸術祭で、復活ライブを行おうと思われたのですか?

「YEN TOWN BANDは、映画『スワロウテイル』の中の『円都』という町で生まれたバンド。(復活の機会が)どこかないかなって探していたわけではなく、本当に僕のインスピレーションでライブをやろうと思ったんです。映画では、経済の危うさに着眼して、お金に振り回されていく社会や人々、そこからにじみ出てくる本当の人間らしさみたいなものが描かれていたと思うんです。越後の奥深い地にある越後妻有という場所と、経済発展を良しする東京との距離感の中で、十数年封印されていた架空のバンドが越後妻有にだけ登場するというその関係性の中で、封印を解くっていうのがスタンスとしてありだなと思ったんです。実際、ライブをやったんですけど、今もあまり実感が湧いていないですね。なんか夢みたいな感じで。覚えているのは、カゲロウが集まってきて大変だったということ(笑)。ただ、自然の中で作品と対峙しながらやるのは、すごい聴こえ方をするんだなと思いました。僕らも1つの要素になるというか、触媒になるというか…。通常の音楽ライブとは違った反響をいただきました」

 

 

-大きな反響を呼んだライブから3年、今年も大地の芸術祭に参加されます。この2015年のパフォーマンスが、今回2018年の出演につながったのですか?

「それはたぶんないんですけど、フラムさんから3年後を目指した要請がありまして、それが前回よりも難易度がすごく高かったんです。ただ難易度は高いけど、なるほどなって思うところがあって」

 

-今回は、交響組曲「円奏の彼方(Beyond The Circle)」を手掛けられると伺いました。交響組曲を作ってほしいというオーダーがあったのですか?

「北川フラムさんから、『作曲家の柴田南雄さんを知っていますか?』と声を掛けられました。柴田さんは1975年に、鴨長明の『方丈記』をベースにした交響曲『ゆく河の流れは絶えずして』を作られた方。方丈記は、町がお金も含めて虚飾にまみれていく物語。方丈という質素な立方体に暮らす主人公は、そういうものに対して距離を置きながら自由になっていきます。『いくら世の中のことを考えても自分の気持ちがちゃんとしてなければ、自分の心が豊かでなければ何の豊かさがあるの?』というようなセリフも出てくるんだけど、そういう言葉も柴田さんはピックアップしながら作られているんです。『この交響曲を小林さんが思うようにやってほしい』というオーダーをフラムさんからいただいたんです。『フラムさんがなぜ、これを小林武史に依頼したのか?』というところも含めて非常に興味を持って、手探りで始めたんですけど、調べれば調べるほど面白い。音楽的な構成は、ベートーベンの第九を下絵に、柴田さんが作られた当時の日本が西洋音楽をどう捉えているかみたいなものが見えてきたり。とても挑戦しがいがありました」

 

 

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