森山さん一人ではなく、いろいろな偶然(曲が導いた必然なのかもしれません)が重なった末に完成した楽曲。森山さん自身もその完成度に満足しているようです。

 

森山さん「(曲の成り立ちは)いろんなタイプがあると思います。僕の名義でやってはいるけれども、いろんな人の意見とか、こだわりもどこかで必要で。むしろ自分に対しての、時として、面倒くさいなっていうようなメスが入っていくことで、アルバム全体の底上げになっていったり。それが結局個性になったり。そういう意味ではすごく有意義な企画になったのかなと思います」

 

 

 この「人間の森」をはじめ、ニューアルバムには実に多彩な楽曲が収録されています。どの曲もメロディーの美しさが際立つような印象を受けます。

 

森山さん「意識はしていないですけど、曲先(=詞よりもメロディーが先に出来上がる曲)が多いからそういう印象になるのかなと思います。詞先っていうのは、なんか今詞が立ち上がる瞬間、言葉にならない思いが凝縮される瞬間というか。御徒町(凪)が書く詞というのは、その裏側に僕はメロディーが聴こえたりして、結構そういうところから積み重なっていって曲になる。曲先の曲は、わりと形から入る物が多かったり、『だいたいこういうイメージ』とか、『こんな風にやったらなんか面白いな』とかそういう着想でいって、外側から内側に入っていくみたいな感じ。『この曲何が言いたいの?』みたいな、そういう意味ではノリとか雰囲気とか音楽的。音楽って言葉が無くたって共鳴とか響きだけで楽しめるじゃないですか。そういう作り方をした曲が今回のアルバムは割と多いんで、その部分がそういう印象になってるのかな、でもそうだったらいいなぐらいの感じなんですけど」

 

 アルバムの最後を締める「時代は変わる」では、母である森山良子さんがコーラスで参加しています。これにも、森山さんのある考えが反映されています。

 

森山さん「収録した『糧』や『時代は変わる』もそうなんですけど、やっぱりカントリー&ウエスタンっていうものが自分の中で一番肌に合うんです。ノリの良い曲って、いろんな曲のタイプがあるじゃないですか?もっとロックな物もあったり。でもあの感じ、あの軽やかな感じっていうのは紛れもなく母の影響が強くって。母がカレッジフォークっていうのをやってるころの音楽を幼いころから聴いてきて、物心ついたときに、あらためて聴いてみたり。そういうカントリー&フォークを取り入れていった時に、コーラスはやっぱちょっと鼻にかかった、癖の強いブルーグラスの女性の声色が欲しい。いろいろ探してみたんですけど、なかなか出来る人がいないっていう。じゃあこの時代に現役で出来る人っていないのかなって。でもまぁ母親はずっとやってきた人だから、『頼むかぁ』って言って、ちょっと最初は忍びなかったんですけど、二つ返事で引き受けてくれて。『時代は変わる』っていうテーマに対しても、親子でちゃんと一致してて、面白いかなと。結果後付けですけど(笑)」

 

 

「新潟公演に向けて」(次のページへ)