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よく見て、聞いて発見したことを映像に残す。これが想田流「観察映画」

6/1(金)までシネ・ウインドで上映されるドキュメンタリー映画「港町」。
この製作、撮影、編集を手掛けた想田和弘監督が公開前日の5/25に来県し、インタビューに答えてくれました。

想田監督といえば自らの作品を「観察映画」と呼び、さらに「観察映画の十戒」なるものを掲げてドキュメンタリーを撮り続けている人。「港町」はその第7弾となるわけですが、そもそも「観察映画」とは何なのでしょう。

©Laboratory X, Inc. 

 

想田監督「『観察』ってどういう意味かというと、どこか離れたところから傍観するという意味ではなくて、『よく見る、よく聞く』という意味で使っているんです。1つは作り手である僕自身がよく見てよく聞いてその結果発見したことを映画にする。そしてもう1つは観客の皆さんにもよく見て、よく聞いてもらって、映画をご自分の目で頭で解釈してもらう。その2つの意味があるんです。そのために僕は『観察映画の十戒』を掲げて映画を撮っています」。

 

ちなみに想田監督の考える「観察映画の十戒」とは以下の通りです。
(1)被写体や題材に関するリサーチは行わない。
(2)被写体との撮影内容に関する打ち合わせは、原則行わない。
(3)台本は書かない。作品のテーマや落とし所も、撮影前やその最中に設定しない。行き当たりばったりでカメラを回し、予定調和を求めない。
(4)機動性を高め臨機応変に状況に即応するため、カメラは原則一人で回し、録音も自分で行う。
(5)必要ないかも?と思っても、カメラはなるべく長時間、あらゆる場面で回す。
(6)撮影は、「広く浅く」ではなく、「狭く深く」を心掛ける。「多角的な取材をしている」という幻想を演出するだけのアリバイ的な取材は慎む。
(7)編集作業でも、あらかじめテーマを設定しない。
(8)ナレーション、説明テロップ、音楽を原則として使わない。それらの装置は、観客による能動的な観察の邪魔をしかねない。また、映像に対する解釈の幅を狭め、一義的で平坦にしてしまうきらいがある。
(9)観客が十分に映像や音を観察できるよう、カットは長めに編集し、余白を残す。その場に居合わせたかのような臨場感や、時間の流れを大切にする。
(10)制作費は基本的に自社で出す。カネを出したら口も出したくなるのが人情だから、ヒモ付きの投資は一切受けない。作品の内容に干渉を受けない助成金を受けるのはアリ。

 

想田監督「テーマやコンセプトは最終的には出てくるんですけど、 先に設定しないということですね。例えば『港町』にはいろんなキーワードやテーマが出てきます。見た人によっては 漁業の衰退だったり、高齢化問題だったり、 過疎化の問題だったり、一期一会についての映画だったり、いろんな見方ができると思うんです。でも僕が撮影前からそういうテーマを設定していたら、その テーマに合わせていろんな登場人物を選び、その登場人物をテーマを描くための道具にしてしまう。そうじゃなくて僕の場合はまずはそこで暮らす人との出会いがあって、その方々の生活とか仕事ぶりとかに興味を持って、 よく見てよくお話を聞かせてもらう。そうすると、そこからいろんなテーマが後から出てくる。 この順番が大事だと思うんです」。

映画「港町」撮影秘話

 リサーチもなく、台本もなく、テーマも落としどころも最初から設定しない。「港町」はどのような経緯でできたのでしょうか。

 

想田監督「一言で言うと『ご縁』ですね(笑)。今回、牛窓という町が『港町』の舞台になっているんですが、ここは僕の妻でプロデューサーの柏木規与子の母親の故郷なんです。よく遊びに行っていたんですが、地元の漁師さんたちとお友達になって、漁師さんたちの生活に興味を持ち始めたんですね。とくに、漁師さんたちがみんな高齢で後継者もおられないと聞いたときに、もしかしたら10年、20年後には漁師さんがいなくなっちゃうんじゃないかなと思い衝撃を受けました。 それで、たまたま知り合った漁師さんにカメラを向けたのが「牡蠣工場」(2015年公開)だったんです。その「牡蠣工場」をだいたい撮り終えて、風景ショットを撮ろうとカメラを持って牛窓をうろうろしていたときに会ったのが86歳の漁師さん、ワイちゃんなんです」。

©Laboratory X, Inc.

 

ワイちゃんとは「港町」に出てくる漁師さんで、映画の前半はワイちゃんとその周辺の人々の生活が描かれています。

 

想田監督「ワイちゃんがたまたま大きい魚を捕ったばかりみたいで、僕がカメラを持っているのを見て、 『これを撮れ』って差し出してきたんです。それでカメラを回し始めたのが映画の冒頭部分。『ワイちゃんって面白い人だな』と思って、漁を撮らせてもらって、捕れた魚はどこに行くのかなって思ったら市場へ行く。市場へ行ったらせりが始まる。撮っていたら顔見知りの鮮魚店のおかみさんがいて、 じゃあその鮮魚店さんのところでも撮らせてもらおうって……という感じでホントに全然計画してなかったんですが、全部しりとりのように『ご縁』がつながっていって映画の素材がそろっていった」。

 

この作品にはもう一人、キーパーソンになる人物が出てきます。それは常に愚痴を口にしているクミさんという女性です。

©Laboratory X, Inc.

 

想田監督「僕は最初、ワイちゃんに興味があってカメラを向けていたんですよ。そしたら、 なんか知らないけど、フレームにクミさんが乱入してくる。観察映画はなるべく目の前で起きていることを素直に撮っていくっていう考え方の映画なんで、自然と段々クミさんが主人公になっていくわけです(笑)。 正直、彼女の言っていることには謎も多いんですけど、それも含めてクミさんという人物だと僕は捉えていますね。人間は矛盾した存在なので、それはそれで僕はいいと思う。そこらへんがジャーナリズムとは違うところで、ジャーナリズムであればホントのところどうだったんだといって、裏を取る作業をするんでしょうけど。ジャーナリズムには真実というものがあって、その真実にいろんなアプローチをすればたどり着けるっていう前提がある。でもドキュメンタリーは真実なんてよくわからないという前提に立っているって僕は思っているんです。だからわからないものはわからないというのが、我々の立ち位置なのかなと思っています」。

「港町」は全編モノクロで構成されています。撮影が終わり編集の仕上げの段階までこの映画は全編カラーで作られていてカラーコレクション(色補正)も済ませていました。しかし、もう一人の製作者・柏木規与子さんの思いつきでモノクロームにすることを決め、カラーコレクションを一からやり直すことにしたそうです。

 

想田監督「なんでモノクロにしたらって言ったのか、(柏木さんは)覚えていないんですって。ホントに思いつきなんです。でもモノクロにしてみてわかったことがいくつかあって、一つはワイちゃんやクミさんや牛窓の街並みはモノクロがものすごく合う。あと、モノクロにすると、いつの時代かわからなくなって、200年前の世界にも見えるし、200年後の世界にも見えるというか違う次元の話に見えるんですよ。時空と時空の間にはざまがあって、そこに迷い込んだような感じになる。そのシュールな感じがこの映画には合っているなと思った。牛窓って実際、どこかにタイムスリップしたような感じの町なんですよね」。

©Laboratory X, Inc.

 

想田監督の目を通して見た景色をそのまま作品として形にした「港町」。見る人によって感じることや心に響く部分はそれぞれ違っていい、好きなように楽しんでほしいと想田監督は言います。

「港町」は6/1(金)までシネ・ウインドで上映中。また、同館では8/18(土)~8/31(金)に想田監督の新作で観察映画第8弾「ザ・ビッグハウス」を公開します。こちらも公開間近になったら、想田監督ご本人に語ってもらう予定です。乞うご期待。

©2018 Regents of the University of Michigan

 

 港町
公開中
監督・製作・撮影・編集/想田和弘
製作/柏木規与子 
◆東風、gnome配給

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