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2019年の話題作「新聞記者」の藤井監督が来県!幻の短編から待望の新作までを語る

「新聞記者」「デイアンドナイト」の藤井道人(ふじい・みちひと)監督が手掛けた短編映画を上映するイベント「藤井道人ムービーセレクションVOL.2」が2019年12月21日、i-MEDIA国際映像メディア専門学校(新潟市中央区古町通5)で行われました。当日は「埃」「東京」「寄り添う」の3作品が上映され、その後、藤井監督がゲストで登壇。観客からの質問や意見に時にユーモアを交えながらコメントを返してくれました。この3作品のうち、「埃」と「東京」は特に監督の中でターニングポイントになっている作品で、2020年に連続リリースされるDVDにも収録されることが決まっています。

 

「埃」

 

藤井監督「ショートフィルムをみなさんそんなに見る機会はないと思うんですが、僕たちは長編を撮るために1クールに1本作ってずっと自分たちで上映していました。会社(BABEL LABEL バベルレーベル)を作ったのが2009年ですが、作風が変わったのが2011年。東日本大震災が起きた後もずっと映画を撮っていたら、当時同居していた彼女に『あなたは人間としての大事なものすべて、持ってない』って言われて振られちゃったんです。貯金も3,000円くらいで、震災が起きてみんなそれぞれの生活を見直しているのに、自分には見直せるものもない。そんな自分に憤りを感じてた時に撮ったのが『埃』です」。

 

「東京」は地方からさまざまな理由で状況してきた若者たちにスポットを当てた青春群像。観客からは東京出身の藤井監督から見て地方出身者はどのように映るのかという質問がありました。

「東京」

 

藤井監督「地方から人がやって来ると、東京はこんなところだって僕は添乗員みたいになるんです。みんな勝手に来て勝手に去っていくんだけど、その過ごしていた日々はすごく濃密で、そんな彼らをちゃんと一回撮ってみたいなと思って作りました。あとは、自分が監督を続けていくという意思表示も込められています」。

 

質問は作品のほかにも「そもそも監督が映画を撮ろうと思ったきっかけは?」というパーソナルなものまで飛び出します。

 

藤井監督「僕は3歳から18歳まで、ずっと剣道をしていたんです。父親が日本チャンピオンで、負けることは許されない状況でやってきて、それなりに結果も出せたと思う。でも、高校くらいで仲間と遊ぶことが楽しくなってから、剣道に対する情熱が薄くなっていった気がしました。あとは高校卒業しても就職は嫌だなと思ってモヤモヤしてたんですよね。それで、高校3年生のときに親友と、将来、何がやりたいか話したときに、とりあえず一日一個何かやってみようということに。僕は家から約1分のところにTSUTAYAがあったので、一日一本DVDを見るということを2年間ずっと続けたんです。そこから少しずつ映画に興味を持ち始めたんですが、決定打だったのが、『エターナル・サンシャイン』。この映画を見たときに、脚本って面白いなと思ったんです。最初は何となくでも、映画って作っていると面白いなって」。

 

新潟で自主制作で映画を作っている学生さんからは、インディーズの時に1クールに1本映画を作っていたという藤井監督のエピソードに対して、なぜ、そんなにコンスタントに作品が作れるのか?という質問がありました。

 

藤井監督「1カ月で3本の長編の脚本を同時に書いたりすることもあるんですが、1週間こもらせてほしいと連絡して、宿だけ押さえてもらったりしています。それでも食べられるようになったのは最近なんですよね。なので、映画で生活をしたいと思ったら、しっかりとそのスピードにも対応できるようにならないといけない。本当は2年に1本しか撮りたくないんですけど、そうもいかない。僕は趣味で映画を撮りたいと思ってなくて、ちゃんと職業として監督をしたいんです。会社が成長してくれればいいという夢があって、そう思うと一番サボっちゃいけないのが監督。だから監督がまず一番しっかりしないと。無理してでも、スピード感を持っていいもの作らないと。なのでマネージャーに止められるまでは、しっかりと無理をしてやっていきたい」。

 

最後に新作の告知と短編映画のDVD発売、そして、2019年にリリースされたソフトのお知らせです。

 

藤井監督「『新聞記者』がヒットしたので調子に乗って、『DVD出しませんか?』って言われて、すぐ『はい出します』って言っちゃったんです(笑)。『デイアンドナイト』とか『新聞記者』とかまだ見てない方は配信でも見られます。『光と血』はインディーズ最後の自主映画で貯金の350万円を全部使っちゃって。フィリピンに行くシーンを撮りたかったんですけど、その金を工面するために、CMを1本撮りました。ショートフィルムってみなさんも劇場で見ることはあまりないと思いますし、逆に見方も難しいと思うんですよね。長編には長編のよさがあるし、ショートフィルムにはショートフィルムの良さがあると思うので、長編を知った上で昔の短編を見ていただくと、面白いかもしれません」。

 

経験が自分の武器に

イベント終了後、今度は単独でKomachi MAG.のインタビューに応えていただきました。藤井監督は2019年7月に映画「青の帰り道」が新潟で再上映された時にもお話を伺っています。この5カ月間で、ご自身の監督作「新聞記者」が日刊スポーツ映画大賞で「作品賞」を、「デイアンドナイト」に出演した清原果耶さんが新人賞を受賞するなど、注目が集まる藤井監督ですが、イベントでも告知された通り2020年に、過去に手掛けた短編映画のソフト化が決定。2月から3カ月連続でリリースされます。

藤井監督「昔の作品を出すのは、過去の自分を急に振り返らないといけない感じがして恥ずかしいですが、逆に過去があるから今があるっていう、それをお見せできるタイミングが来たのは感謝してます。『新聞記者』や『デイアンドナイト』と違って、誰かに頼まれて撮っているわけじゃない。自分が撮りたくて撮って、公開してるものが自主制作映画なんですよね。ショートフィルムっていうのは自分のエゴしかない、“これが藤井道人だ”っていうことしかないんです。(ショートフィルムを作る時は)今の自分が考えていることをすべて出すということだけを考えています。『埃』の予告編でも出していた『いつも笑っていた』という言葉があるんですが、全然楽しくなくても笑っている状態が僕自身もあった。それに対して折り合いを付けるというか、自分の精神状態、自分のクリエイティビティーに折り合いをつけるためにショートフィルムをどんどん発表していくということを、2014年まではずっと続けていた気がしますね」。

 

ご自身を「負けず嫌いでくやしがり屋」と評する監督は、自ら決めていることの一つに「つらい方を選ぶ」という信条があるそうです。

 

藤井監督「二択あったら、大変なことをずっと選択していた。だから、やっぱり勝手にパンクしているんですよ。でも人にパンクしているって見せたくないから、自分で背負いこんで、身の程を知らないまま会社を作り、身の程を知らないままデビューし、でもそこで得るものがすごく多かった。僕には非凡な才能がないので、全部経験していくしかない。僕は肯定主義でありたいって思うんです。今時の若者はだめだとか、何でもかんでも否定するという考えはよくないって思っていて。だからやっちゃえばいいんですよ、って言うんです。やった人間は(経験したから)やりたくないって言える。こと、業界に関してですが、配給とか宣伝とか知らないでしょって言われないように、僕は実際やりました。宣伝というのはどうゆう本質があるのかを監督が知らないと思っているから、僕たちは競り負ける。だったら知るべきであるし、知っていて譲ることと、知らないで預けることは全然違う。『生意気だな、こいつ』ってよく思われると思うんですけど、でも知っておくことが大事なんです。インディーズをやって良かったことは、録音の知識も編集の知識もCGの知識も全部付くんですよ。なぜかというと、お金がないから自分たちでやるしかない。そこらへんの強度みたいのを、20代はもがきながら拡張していきました。どんどん縦と横に。だからつらかったですね、めちゃくちゃ」。

 

そんな監督の下積み時代に作り上げた短編をまとめたDVDは2020年2月25日(火)、3月25日(水)、4月25日(土)と3カ月連続でリリースされます。3作品とも藤井監督の特典ドキュメンタリーが付いていて、「藤井道人 かこ、いま、これから」というタイトルのこの映像は、藤井監督がゆかりのある人たちを一人ずつ訪ねていくというものです。

 

藤井監督「僕は中学校の同級生と一緒にバーをやっているんですけど、そのバーのマスター。あとは大学の先生や(所属している)BABEL LABELの社長。そして『新聞記者』という商業としての転機をくれた河村プロデューサーや、『光と血』を作った久那斗プロデューサーたちと『いろんなことがありましたね』って語り合う。その過去を経て僕にアドバイスをくださいっていう旅なんです。『新聞記者』で、一つ目標というか、達成できた部分もあるので、今後、どう監督をやっていくかという意思表示ですね。僕は何事にもなぜ今、これを出すのか、ということがすごく必要だと思っていて、過去のものを出すのであれば、今、自分はどのように思っているのかということをちゃんと残す。商業的な価値があるのかは置いておいて、作品としては、今、自分がこう思ってますということをちゃんと書いておきたかったんです」

 

藤井監督待望の新作には芸能界の大ベテランが出演されるそうです。「新聞記者」の松坂桃李さん、「デイアンドナイト」の阿部進之介さんなど、監督の作品にはご自身と年齢の近い出演者が多いですが、この大ベテランとの撮影は幸せな時間だったと言います。

 

藤井監督「(セリフを)時代というものをちゃんとまとった言葉に代えてくれるし、話していてすごく勉強になります。(年齢が離れていると)書き切れない部分があるので、今は自分の目線、自分のわかる範囲のものをまずは書くようにしていますが、いつかはちゃんと全世代を書けるようになりたい。今、自分の浅さではとうてい先輩方を描くことはできないと思って、勉強している最中です。でも現場では謙虚になって『僕なんて』ってやっていると、撮影が進まないので『僕がOKって言ったものがOKなんです』って、ベテランの方だろうが言いますよ。僕がぶれると現場がぶれる。内心はびくびくしてますけどね。それを映画人の方々は、面白がって受け入れてくれるんですよ」

 

「新聞記者」のヒットで知名度が大きくアップしたという藤井監督。今後の活動や新潟に対する思いを語ってくれました。

 

藤井監督「(受賞は)会社の中では自分ごとのように喜んでくれる人もいれば、くやしい~って、そのまま言ってくるディレクターもいて。仕事がやりやすくなってきているのは間違いないんですが、それは僕が求めていたことなんです。自分が次にやらなきゃいけないのは、自分が苦労したことを、どれだけ苦労させずにクレバーにできるかを教えてあげる。そして20代の若い監督にどのように撮るチャンスを与えていくかということを、次のフェーズではやりたいと思っています。また、新潟のみなさんが発端で、僕の作品を応援してくれる人たちが各地でいろんなところにいてくださるんです。今は関係値が「監督」ってなってますけど、もっと僕を叱ってくれる場所だったり、そうゆう場所になってくれたらいいなって思います。全員が全員、いいっていう映画はないと思うんです。『私は今回の映画がすごく好きだった』『私は前回のほうが好きだった』というように、興味を持ってもらえればいいし、そういうものをちゃんと交流してディスカッションできる関係になれるようにしたいですね。各地、全国の方々との交流を、今年、来年もしっかりやっていこうと思います」。

 

 

藤井道人/ふじい・みちひと
1986年生まれ。東京都出身。映像作家、映画監督、脚本家。BABEL LABELを映像作家の志真健太郎と共に設立。日本大学芸術学部映画学科脚本コース卒業。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』でデビュー。以降、『7s/セブンス』などの作品を発表する一方で湊かなえ原作ドラマ『望郷』、ポケットモンスター、アメリカンエキスプレスなど広告作品も手がける。2017年Netflixオリジナル作品『野武士のグルメ』や『100万円の女たち』などを発表。2018年『青の帰り道』、2019年『デイアンドナイト』『新聞記者』が公開。

 

 

2020年2月25日(火)リリース
『藤井道人監督 初期短編作品集①』
<収録作品>
「埃」42分 出演:曽我幸一郎、川上一輝、岩原正典、カズヤ、片岡弘明、金子一夫
「カナタ、遠く」31分 出演:蝦名聖也、池田嘩百理、青山拓也、牛山祐樹
特典ドキュメンタリー「藤井道人  かこ、いま、これから①」 20分
販売:オールインエンタテインメント

 

 

2020年3月25日(水)リリース
『藤井道人監督 初期短編作品集②』
「そのうちぼくらは」49分 出演:永夏子、森聖矢、小野裕崇、市川唯、観月悠
「 名もなき一篇」25分 出演:寺崎崇明、池田嘩百哩、柳田竜人、南部映次、中村靖子
特典ドキュメンタリー「藤井道人  かこ、いま、これから②」20分
販売:オールインエンタテインメント

 

 

2020年4月25日(土)リリース
『藤井道人監督 初期短編作品集③』
「東京」43分 出演:世良優樹、打越梨子、大谷哲朗、金沢匡紘、蝦名聖也、池田薫
「 A LITTLE WORLD」20分 出演:ep、清野優美、塩澤英真、木村大志、日高秀
特典ドキュメンタリー「藤井道人  かこ、いま、これから③」20分
販売:オールインエンタテインメント

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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