「りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館」(以下、りゅーとぴあ)が1998年の開館記念ミュージカルとして上演したミュージカル「シャンポーの森で眠る」。切なくも美しい物語と、東京と新潟のキャスト・スタッフが一丸となって作り上げた高いクオリティーのステージで“奇跡のミュージカル”と話題を集め、2001年には、双子の兄弟に愛される少女・ファデットをクローズアップしたリメイク版が上演されました。

 そして、開館20周年を迎えた今年。17年ぶりとなる待望の再演が10月19日(金)から21日(日)にかけて行われます。

 

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 その公演を前に、同館にメインキャストやスタッフが集結し、記者会見を開催。ここでは、その模様をお届けします。

 

 冒頭では、りゅーとぴあ支配人の近藤博さんが今作に懸ける思いを語りました。

 

近藤さん「本作は20年前の開館記念の事業として上演され、その3年後にリメイク版『ファデット』として再演された作品でございます。全国で活躍するキャスト・スタッフが新潟に長期滞在をいたしまして、新潟のキャスト・スタッフと時間をかけて、丁寧に制作をすることで非常にクオリティーの高い作品が生まれました。新潟のキャスト・スタッフ、そして私ども会館にとっても、大変貴重な経験となった作品でございます。そして、今年20周年という節目の年にあたり、もう一度当時のように時間を掛けて丁寧に制作する作品を作り上げていきたいと考え、この度再演をすることにいたしました」

 

 続けて、りゅーとぴあの演劇部門芸術監督・笹部博司さんのお話からは、この作品がりゅーとぴあにとって、非常に大切なものであることがうかがえました。

 

笹部さん「近藤さんから20周年の相談を受けたときに、この作品しか思い浮かばなかったというのが正直な気持ちです(笑)。この作品をもう一度みんなで作ることで、オープニングの時のがむしゃらな思いに再度立ち返り、りゅーとぴあがどこに向かって行くべきかをもう一度見つめ直すことができると思いました。本作の原作は僕の愛読書でもある作品で、ランドリーとシルビネという双子の兄弟が、ファデットという一人の女の子に恋をしてしまう物語です。でも、今回はそれは背景であって、弟の恋人を愛してしまった兄・シルビネが彼らの元を立ち去ったあとに、どんな人生を送ったのかを描いています。先日、松村さんと木村さんと本読みをやったんですが、松村さんを見て、『僕が会いたかったシルビネはここにいたんだな』と思いました。自分の中のシルビネは、松村さんの心の中にもしかしたらいるのかなと、とても期待しています」

 

 そして、本作で重要な役割を担う音楽を作曲し、音楽監督も務める宮川彬良さんは20年ぶりに今作に携わることに対する正直な気持ちを、笑いを交えて明らかにしました。

 

 

宮川さん「この作品は今の自分の核となる作品で、この作品を書き上げられたことが作曲家としての自分のスタートだったと今でもずっと思い続けています。正直に言いますと、再演にあたって今非常に不安です。作曲家というのは、作っている限りはノリノリで無敵なんです。ところが今、20年ぶりに自分が作った作品と対峙しています。作っているのとは、またひと味違う立場で自分の作品を眺めています。この劇場は、思わずにやにやしてしまうほど何も変わっていなくて、非常に愛着があります。ですが、稽古場の雰囲気などは何もかも違うんです。何がどう違うのかというのを、2週間くらい自問自答を繰り返して考えたんですが、一番変わったのは自分であるという結論に至りました。もちろん役者さんもすべてフレッシュですし、実力のある方々が揃っていることはわかっていますし、新しい演出の方が数段優れた面があることも予測はつくんですけども、僕はどこか焦っています(笑)。作る方がずっと楽だな、作ったものをあらためて伝える方が難しいなと今更ながら思い知った57歳の秋でございます。よろしくお願いします」

 

 さらに今回演出を手掛ける戸中井三太さんは脚本の面白さを観客の皆さんにも味わってほしいと話します。

 

戸中井さん「この作品は、1つのシーンの中に大変複雑なイメージがいくつも含まれています。生の裏には死があるし、表には裏があって、光と闇、必ず対局のイメージが含まれている。それが何重にも仕掛けられているドラマなんです。そして、広い視野で見ると、傷ついている一人の男が復活していくまでの物語です。脚本も非常に工夫されていて、自分の心の中のドアを開けて、どんどん深く入って行ったら外側にある大きな世界にひょいっと手が届くようなイメージ。観客の皆様には、この作品を目撃することによって、そういう大きな体験をして帰っていただけたらうれしいです」

 

キャストが語る本作に懸ける思い(次のページへ)