今年5月に活動開始から15周年を迎えた、シンガーソングライターのやなせななさん。3月には、これまでの軌跡をたどったアルバム「15th THE BEST『はじまりの日』」をリリースしました。シンガーソングライターとして活動すると同時に、奈良県にある実家のお寺で、僧侶として住職を務めているやなせさん。今回は、そんな彼女にいろいろとお話を伺いました。

 

「僧侶になった理由は、私がおばあちゃん子だったからなんです。ほかにも兄弟姉妹がいるんですが、私は祖母にとって末の孫で、特にかわいがってくれたみたいなんですね。物心がつくころからいつも身近で、仏様のことに限らず、いろいろな話を聞かせてくれました。私たち仏教に携わる者の間では『毛穴から仏様の教えが入り込む』というような言い方をするんですが、私も本当にそんな感じでごく自然に教えが身につき、僧侶になりました」

 

 

生まれたときからお寺での暮らしが日常だったことに加えて、おばあさまのご主人、つまりご自身のおじいさまが先の戦争で亡くなったということが、やなせさんが生み出す楽曲の深い部分に少なからず影響を及ぼしているようです。

 

「祖父のことを、祖母は繰り返し話してくれました。その話は『戦争はいけない』のような直接的な言い方では決してないし、大げさな話でもないんですけど、戦争が始まってから自分の身の周りでどんなことが起こったか、そのときに自分はどう感じたのか。それを事細かに語ってくれるんです。そして、そのたびに祖母は涙をこぼすんですね。その、祖母が泣くということ自体が、幼い私にとっては強い印象になって、今も心の中にずっと残り続けている気がします」

 

こうしてお寺で過ごしてきたご自身が音楽を志すようになったのは、意外なきっかけからでした。

 

「正式に僧侶になるために僧門の学校に通うことになって、そこで最初は趣味で軽音楽部に入ったんです。そうしたら先輩から欠員が出たからと誘われ、ゴスペルのサークルに参加することになったんですよ。ところが入ってみると、かなりスパルタなサークルで(笑)。ゴスペルはキリスト教の宗教歌ですから、合宿して練習をするようなときには、アメリカ人の牧師様がいらして、お説教をなさるんですね。はじめ、私はゴスペルは迫力があって歌っていても楽しいと思っていただけだったんですけど、やがてゴスペルの曲と同じくらい、お説教に心を引かれるようになったんです。牧師様がされるお話のキリスト教の神様を仏様に置き換えたら、これまで私が実家の寺で身につけてきた仏様の教えと、とっても似ている。そう感じるようになっていったんです」

 

 

仏教を学ぶために入った学校で、異なる宗教とそれにまつわる音楽を体感したことが、自分で音楽を生み出す出発点になったと、やなせさんは話します。

 

「仏教とキリスト教はどちらも人を救済する宗教ですから、確かに似てはいるけれど、どこかが違う。それにゴスペルは歌詞も英語ですから、私の中にあった言葉とは違うことを歌っているわけですよね。それに気付いて、私は私の言葉で歌っていこうと、オリジナル曲を歌うようになりました」

 

 

「ようやく、私にとって新しい日が始まっていく」(次のページへ)