こうして、やなせさんは2004年にデビューを果たします。ですが、その後、生命にかかわる病気と闘い、それを克服することになります。

 

「子宮体ガンと診断されたんです。それまでは、お話してきたように、子どものころからお寺で育って、いろいろと命について聞かされてきて、実際に亡くなった方をお送りしてもきたんですけど、自分が死ぬかもしれないとは考えたことがありませんでした。死ぬとしても、それはずっと先のことだと思っていたんですよね。病気を患って、これから自分がどうなるのか、不安や恐れを感じるだけだったんですけれど、幸い、診断してくださったのが、とてもいい先生で、そんな風に弱い気持ちになっている私を叱ってくださったんです。若いうちに亡くなってしまったほかの患者さんのことも話されて、これからも生き続けるにはどうすればいいかを二人で考えようと、手術を受けることを私に決断させてくださいました」

 

闘病のあと、やなせさんは、再び音楽を始めるとともに、CMソングやゲームのテーマ曲、さらには、演劇の劇中歌などへと活動の場を広げていきます。その活動を続けながら生まれてきた曲を、アルバム「15th THE BEST『はじまりの日』」で聴くことができます。

 

「15年目を1つの区切りにするのは、私自身もハンパな気がしますけど、10年目のときは、自分でもいろいろなことがあって、音楽としてまとまったことができなかったんです。でも、今は子どものころから私の中に積み重なってきたことを歌にしてお伝えできる。そして、今からまた別の新しいことを始めていける。ようやく、私にとって新しい日が始まっていく。そう信じられたので、タイトルに『はじまりの日』という言葉を入れたんです」

 

アルバムに収録された曲の1つ「手向け花」は、新潟にゆかりのある曲だそうです。

 

「この曲が生まれたのは、小千谷市の片貝まつりで花火を見たからなんです。片貝についても花火についても詳しいことは何も知らずに、ただ大きな花火が見られると聞いて行ってみたんですけど、実際に見て、地元の皆さんが個人的に上げる花火もあるということを初めて知ったんですよ。その中でも、『追善供養花火』というのがあって、亡くなった方のご家族が、それぞれの思いを読み上げてもらって、それから花火が上がる。そのことに、とても強い印象を受けたんです。それに、初秋の片貝の情景に、心に残る郷愁を覚えました。私が育った奈良には、本当に規模の小さいお寺がたくさんあって、実家の寺も、その1つなんです。寺の周りには、新潟の田んぼほど立派ではないんですけど、同じように田んぼがあって、その間には小さな川が流れている。その景色も心に浮かび上がってきて、それで、この歌が生まれました。この曲ができた年には、私も片貝で花火を上げてもらったんですよ(笑)」

 

これらの曲を生の歌声で聴けるライブと、やなせさん自身が企画・脚本・音楽を手掛けた短編映画「祭りのあと」を同時に楽しめる公演が、7月5日(金)に長岡市で行われます。

 

「映画を作ったのは、何とか私の歌を少しでも多くの人たちに聴いていただくにはどうすればいいだろうと考えていたとき、私の地元の奈良県でシナリオコンテストがあると知ったからです。もし、私が自分の曲をモチーフにしたシナリオを作ってドラマ化されたら、私の曲がより多くの人に聴いてもらえるかもしれないと思って、応募しました。シナリオを書くのは、そのときが初めてでしたから、結局、落選したんですが(笑)。それならば自分で作ってみよう、長めのミュージックビデオだと思えばなんとかなるだろうというくらいの気持ちで、映画を作ることにしたんです。完成するまでには、いろいろな人たちに出会って、助けてもらいました。その映画を新潟の皆さんに、ご覧いただけることになって、本当にうれしく思っています。ですから当日は、私の歌と合わせて、会場にいらっしゃる方々に温かい何かを感じていただけたらと願っています」

 

 

◎公演情報

15th Anniversary Tour 2019“はじまりの日”in新潟

【会場】長岡リリックホール・シアター

【日時】7月5日(金)14時開演 

【料金】3,000円(全席指定)※当日500円増

【備考】チケット/発売中

【お問い合わせ】スタジオタビー ☎06-6948-8556

 

 

やなせなな●20045月、シングル「帰ろう。」でデビュー。以降、最新作を含め、6作のアルバムと5作のシングルを発表。つかこうへい作・錦織一清演出の「広島に原爆を落とす日」(2015年)をはじめ、演劇作品の劇中歌などにも起用される。各地でライブを行うとともに、自著やCDブックなども出版。その活動は「歌う尼さん」として注目され、テレビのドキュメンタリー番組でも取り上げられている。