乾いたラジオの音が響くこぢんまりとした店内。


11時の開店を待って次々と引き戸を開けて入っていく。8席は瞬く間にいっぱい。
みんなギュッと肩を寄せ合うように詰めて座り、食べ終われば丼をカウンターに上げて「ごちそうさま」と、次のお客さんへ席を譲ります。これがいつもの風景。

 

新潟市古町にある老舗「信吉屋」


土田洋生さんと文江さん夫婦が二人三脚で切り盛りする「信吉屋」。
人情横丁で暖簾を掲げて30余年になり、支那そばの名店として子どもからお年寄りまで、幅広い世代のファンから慕われています。


なかでも特に常連客の胃袋をつかんで離さないのが、ワンタンメンです。

 

澄んだスープに浮かぶ手仕事ワンタン

ゆるく縮れた極細麺が泳ぐ澄んだスープに、ふくよかなワンタンと身の締まったチャーシューをおおらかにトッピング。

「ワンタンはその日に作ったものしか使いません。豚肉しか入れてないんだけど、おいしいんですよ。味付けにこだわってますからね」と、文江さんがニッコリ。


皮は仕入れているものの、調味料を加えたひき肉を丹念にこね、手作業でひとつずつ包んでいく。
仕込みは洋生さんひとりで、数も限られています。
だから、売り切れ御免の数量限定。いつも13時頃には品切れになってしまいます。

「ラーメン一本で勝負したくて、川岸町にあった食堂を閉めて本町に移ってきました。最初はお客さんが来なくて苦労しましてね。この味にたどり着くまで3、4年かかりました」。

 

夫婦のあうんの呼吸でラーメンを仕上げる


そう話しながらも手を止めずに麺をゆでる洋生さん。続けて「この特製ワンタンもほかではマネできない味だと思いますよ。味付けは門外不出ですが…」。
すると、文江さんが「支那そばに使っているタレを取り入れているんですよ。って私、秘密を言っちゃいましたね(笑)。作り方までは言えないけど、ひと手間、ふた手間を掛けているから豊かなうま味になっているんですよ」。


そう言ってほほえむ姿を見て、洋生さんの頬も自然と緩みます。おしどり夫婦を絵に描いたような、ふたりの素敵な掛け合いも信吉屋の名物です。

 

夫婦の掛け合いに心もほっこり温まる


「毎週食べても飽きないですよ。誰よりも信吉屋が好きです」。この日、居合わせた常連さんのラブコールのそばから、「私なんか毎日食べているのよ(笑)」と、文江さん。
「お父さんが体を壊して閉めてた時期があったんです、再開して久しぶりに食べたら、本当にホッとしたのを覚えています」。
多くのお客さんに愛される信吉屋。しかし、一番のファンは、ずっと寄り添い続ける文江さんなのかもしれません。

 

 

 

元祖支那そば 信吉屋
[住所]新潟市中央区本町通5-423-7 本町中央市場(人情横町)内  
[電話番号]025-228-3436 
[営業時間]11時~麺なくなり次第終了
[定休日]木・金曜